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哲学

人類学とはどのような学問なのでしょうか。各国で定義が異なる複雑な状況を分かりやすく解説します

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「人類学」はギリシア語の「人間」をさす「anthropos」と「学」という意味の「logos」からできた言葉で、文字どおり「人間の学」を意味します。

サリーを着て楽しそうに踊るインドの女性

人間を対象とする生物学ですが、広く人文・社会科学的な見地を含めた総合的な人類の科学と解されるともあります。人類学の研究領域についての考え方は欧米の間においても異なり、かなり複雑なものとなっています。

人類学の始まり

「人類学」の始まりは、古代エジプト王朝の棺・壁画などに示されている異民族への興味に見ることができます。

「人類学」が科学としての姿を整えたのは、1856年、ドイツのデュッセルドルフ近郊のネアンデルタールにおけるネアンデルタール人の発見や、1859年、チャールズ=ダーウィンの著わした『種の起源』などによって、人類の祖先に対して興味の高まった19世紀後半のことです。

アメリカにおける人類学

アメリカでは、「人類学」を生物としての人間と文化を担う人間とを切り離さず、総合的に研究する学問としてとらえます。

アメリカの大学の人類学科は、「生物学的人類学(自然人類学、形質人類学ともいわれます)」、「先史考古学」、「言語人類学」、「文化人類学」の四つの領域の研究を重視しています。

このことはアメリカ人類学会が1902年に創設されてからずっと続いている伝統です。

現在では「人類学」の細分化がすすみ、一人の人類学者がこれらの四つの領域を同じように深く研究されることはありません。

しかし、アメリカの「人類学」において、人間の研究では、「全体的(holistic)」な研究を進めるために、これらの四つの領域の研究はやはり重視すべきであるという考え方が強く残っています。

事実、この領域間の共同研究も行われ、たとえば、旧ハワイ王国の歴史に関する、考古学者カーチと文化人類学者サーリンズによる詳細な共同研究の成果が1992年に刊行されている。

アメリカの文化人類学はさらに「社会人類学」、「経済人類学」、「生態人類学」、「心理人類学」、「認識人類学」、「象徴人類学」などに分かれている。また「医療人類学」や「開発」に関する問題を研究する「開発人類学」もあります。

ドイツ語圏における人類学

ドイツやオーストリア等では、人類学という用語はアメリカでいう「生物学的人類学」のみをさし、文化的側面を扱うものとしては「民族学」があります。

「民族学」は民族文化史を扱い、「考古学」もこれに含まれます。

イギリスにおける人類学

イギリスでは「人類学」を「生物学的人類学」、「先史考古学」、「社会人類学」に分けています。

イギリスは「社会人類学」を「文化人類学」の一分野とはみなさず、独立の学問と考え、「文化人類学」という名称は使わない傾向にあります。

社会構造の分析を重視するイギリスの「社会人類学」と文化の研究を重んずるアメリカとの間に1950年代に論争がありましたが、いまではその違いはあまり意識されていないようです。

ただイギリスの「社会人類学」は、アメリカと異なり、「言語学」は含みません。

研究方法としては、イギリスの「社会人類学」はアメリカと異なり、フランスのデュルケームやモースに由来する社会学的方法が重視されてきているのに対して、アメリカでは心理学的方法が尊重されることが多い傾向にあります。

フランスにおける人類学

フランスでは、従来は「民族学」という語が使われていましたが、最近では「社会人類学」という名称も使われています。

フランスで最高の研究・教育機関である「コレージュ・ド・フランス」で「社会人類学」の講座が創設されたのは1958年で、ここの最初の教授がレヴィ・ストロースです。

現在アメリカやイギリス、そして日本においても、「人類学」という用語が「文化人類学」や「社会人類学」をさすことが多くなっています。

日本における人類学

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坪井正五郎が明治30(1897)年、東京帝国大学・理科大学・動物学科に人類学選科を設けたのが日本における人類学の始まりと言えます。そして現在の日本人類学会の前身である東京人類学会が設立されました。

昭和14年(1939)になると、ドイツの「人類学」に学んだ長谷部言人が、東京帝国大学に人類学科を創設し、それが現在の人類学教室の誕生の端緒となりました。

研究面では、エルウィン=フォン=ベルツの「日本人の起源とその人種学的要素」、小金井良精のアイヌ研究、清野謙次の縄文時代人研究、長谷部言人・鈴木尚の日本人の骨の研究などが主流をなしてきました。最近では、解剖・組織・生理、集団遺伝学などをも加え、その研究領域は多岐にわたっています。

近代人類学の定義

近代人類学の定義は、ルドルフ=マルチンが、『Lehrbuch der Anthropologie』(『人類学教科書』)で述べた「人類の時空にわたる自然誌」です。

その分野は、

(一)人類学(人体・人体器官・組織の形態の比較)

(二)人種学(人種形態、人種系統、人種誌)

(三)古人類学(化石人類の形態学、人類の発生誌)

(四)人類遺伝学(人類の発生と変異、淘汰、集団遺伝)

(五)人体生理学(機能の比較形態学)

(六)人類心理学(人の行動)

(七)人体病理学

(八)社会人類学

(九)優性学

となります。

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