明柳書房

漫画の考察や本の書評。台湾の写真なども載せています。

書評

『その傷はどう癒されたか―心の闇を探検する15の物語』感想。トラウマ再演と学習性無力感

投稿日:

2014年1月に読み終わった本の感想です。

大学の図書館に、1999年に出版された、尾久裕紀の『その傷はどう癒されたか―心の闇を探検する15の物語 (青春文庫)』という本があったので読んでみました。

心理学がブームだった1990年代後半

 1990年代後半は心理学がブームになっていて、自分もいろいろ読みましたが、その後はあまり読んでいませんでした。しかし、最近台湾でも不況ゆえか、心を病む人が多くなってきました。そういう人にいろいろ相談されることも多いので、また心理学の本を読み始めています。

 この本の中で特に気になった項目は二つ。

「トラウマの再演」と「再演技化」

 強烈なトラウマを経験した者は、同じようなトラウマを受けやすい状況をみずから進んで選んでしまう傾向があるとのこと。例えば、

敵味方を問わず人間とし人間が殺し合う戦争というものを心の底から憎んでいるはずの元兵士が、再び軍隊に志願して戦いの現場に戻ってしまったり、殺人を犯したりといったケースもしばしば見られる。

といった悲劇や、

アルコールや薬物の中毒患者が、平静な状態では「もう二度とアルコールや薬物には手を出さない」と固く誓っているにもかかわらず、気づいたら摂取していた、というパターン

という事例がよくあるらしいです。

なぜトラウマ的な行動を繰り返してしまうのか

スポンサーリンク

 なぜこのように、トラウマ的行動を再び求めてしまうのかというと、似たような状況に身を置いてトラウマを克服しよう、前回トラウマを受けた状況を今度は支配しよう、とする心理的な背景があるのではないかと指摘されています。

しかし、当然失敗に終わることが多く、新たな悲劇を背負い込む結果になることがほとんどとのこと。何かと身につまされることが多いです。極限状態に身をおくことへの嗜好を感じている人は、少なからずいると思いますが、もともと人間にはそういう傾向があるのかもしれません。

「獲得された無力感」

 わりと有名なセーリックマンの実験があります。犬に逃げられない状況で電気ショックを与え続けると、逃げられる状況になっても逃げ出さずうずくまってしまうという実験です。「学習性無力感」ともよばれています。

 これと同じような実験(電気ショックではなく、騒音というストレスに変える)を大学生に受けさせてみたところ、犬と同じような反応を示してしまったそうです。

人間も犬も「学習性無力感」に陥る

 人間も犬も、「苦痛で不快な環境に置かれ、しかもどうやっても自力では苦痛や不快を取り除けないとわかった場合、感情や意欲などの反応が著しくレベルダウンしてしまう」ことになり、「苦痛で不快な環境から逃げ出すとか改善するといった意欲もめっきり低下」し、本来は逃げ出すことが出来るのにその場に留まってしまうとのこと。怖いのは新しい環境に移っても鈍麻した感情や低下した意欲は簡単には回復されず、長期間影響が残り続けてしまうという傾向があります。

 ブラック企業に勤め続ける人の心理状態もこのような感じなのかもしれません。他に選択肢があるのに、身体を壊すまで働き続けてしまう結果になります。私も日本で働いていた頃は、新卒なのに、先輩が倒れたため、いきなり広い地域の営業を任されて、しかも成果主義が導入されていたので、他の先輩は誰も助けてくれないという状況になりました。

結果、セーリックマンの犬のように、感情も意欲も全くなくなってしまいました。10年以上たった今でも、ときどき無力感に押しつぶされそうになり、何もできなくなることがあります。

「アダルトチルドレン」の解説も

 もう15年も前に出た本で、当時流行りの「アダルト・チルドレン」なんて言葉の解説もあります。台湾では、日本で10数年前に流行ったものが流行り始めるという法則がありそうなので、この本は参考になりました。

 かなり昔の本ですが、今読んでも十分おもしろいし、為になります。amazonでは古本が1円から買えるようなのでオススメです。







-書評
-

Copyright© 明柳書房 , 2017 All Rights Reserved.